長文になりますが、染め変えのお話しを・・
夏の着物真っ盛りのこの時期は、
呉服屋にとりましては、秋のお支度の準備のタイミングでもあります。
自店に揃えるお品の準備は勿論のこと
お客様の、秋にお召しのお支度のお手伝いも、この時期は多くなります。
お手入れなお直しをお承りしたり・・
時には、お家にお伺いして、タンスの整理をお手伝いしたり・・
昨今多くお声掛けを頂きますのは
"しばらく着物を着ていなかったけれど,
お子さんの手も離れて、自分のお洒落を楽しみたい・・
お母様が亡くなられて譲られた着物や、
ご自分の若い頃の着物を着てみたい・・"
そんなリクエストで、お手伝いさせて頂くことが多くあります。
写真の色無地は、
亡くなられたお母様の色無地と、ご自分のお若い頃の色無地。
これからは年会や法事でのお召しもあるので
一枚は、お悔やみの席にも着られる、濃い色目に、染め変えを、
ご自分の大学の卒業式の時に袴に合わせた華やかな色の
もう一枚の色無地は、少し落ち着いた色に染め替えて
刺繍の飾り紋をいれてお洒落着に、
と、お承り致しました。
染め変えというと、
以前は、同系色の濃いめの色に・・とのイメージもありましたが
今は、染まっている色を一度抜いて、白生地に近い状態に戻してから
お好みの色を染めてまいります。
■
2点のうち、ローズ色の品の方が、地紋も落ち着いた雰囲気ですので
不祝儀向きの濃い色の無地に染め直すことにしました。
柄の雰囲気もありますが、お母様が長年お召しだった為に
膝前や、衿、胸元などには、黄変も残り
部分的に色もあせたりしておりますので
いずれにしても、濃い地色を選ぶ事となります。
表に合わせて、八掛も共の色に染め直し
身丈、身幅とも寸法を長くして仕立て直します。
身頃の帯の下に隠れる部分には、"前後"または"後のみ"に
内揚げと呼ばれる縫い込みがあります。
着物の丈を長く仕立て直す場合は、この内揚げの分量によって
長く出来る寸法が限られてまいります。
身丈の寸法の直しについてはもう一つ
八掛と胴裏の縫い込みの分量も確認が必要になります。
表地に十分な縫い込みがあっても、裏地の縫い込みが足りないと
胴裏を新しく交換することも必要となってまいります。
(胴裏を交換しない場合は、
見栄えは悪いですが、間に足し布を入れることもあります)
着物を解いてしまってから、不足のことが見つかってはいけないので
生地の様子や、汚れの具合、縫い込みの量など
よく確認をしてから、仕立てを解きはじめます。
■
オレンジ色の色無地は、生地に光沢有る大きな地紋があり
写真でご覧を頂くより、ずっと華やかな印象に映ります。
お客様のリクエストは、萌葱色の淡いグリーンのお色目。
生地の染め色は、かなり綺麗に抜くことが可能なのですが
時には薄く色が残る時も有り(濃い目の赤みの色は残りやすい気がします)
お好みの色にて染めにくい場合には
あらためてお色を選び直して頂くこともお話をしてあります。
お子様方も、社会人や大学生になられたご年代のお母様ですので
お染め直しの時にも、これから先に長くお召しに慣れる雰囲気にて・・
と思いますので、
お色目もさることながら
生地の光沢の具合も勘案して、表地の光沢感がつよく感じられる場合は
映り具合の穏やかな、裏側を表にして染めることもあります。
お洒落着としてお召しになりたいので
白抜きの家紋は消して、刺繍で飾り紋をお入れする予定です。
色抜きして、上色をかけて、紋を目立たなくする事もありますが
身頃の、正面と後ろを入れ替えて仕立て直すことで
本来無地の場であった部分を、紋の位置に出す事も出来ます。
飾り紋は、色々な見本をお目にかけながら
"百合"の花をお入れになりたいとのご要望で
4種のお花を描いた「花丸紋」の図案に。
染め替えている間に、図案を描いて
染め上がったお色目に合わせて、糸を配色してまいります。
刺繍紋の図案も、リクエストに合わせて、
写真のように一つ一つ描いてまいります
(写真の図案は、以前にお作りしたお品のものとなります)
玉川屋のブログを、右枠の検索窓から
「刺繍」で検索して下さると、
今までの色々な飾り紋もご覧を頂けます
色が抜けましてからの、染めの様子も
またお伝え出来ればと思います。
今回お預かりしたお品は、いずれも30年ほど前に
私の祖母がお勧めをさせて頂いたお品の様です。
しっかりした生地のお品だからこそ、何十年経っても
こうして、受け継ぎながらお召し頂くことが出来ます。
最後にお召しの時からは、大分お時間も空いたようですが
玉川屋で、簡単なお着付けのお稽古もおいでになり
この夏も何度か着物姿でのお出かけをお楽しみに・・
お召しになるほどに、着る楽しみが、奥深くなるのが
日本の着物でもあります。
そんなお手伝いが、させて頂ければと思っておりますので
どうぞ何でもお気軽に、お声掛け下さいませ。
「着物つれづれなるままに」・・いままでの目次には、こちらから
今の季節を楽しみたい・・玉川屋のホームページへは、こちらから