平成11年の7〜10月の分です。


10月23日

「男のきもの大全会」へ参加させていただきました

先日、「男のきもの大全」というホームページの主催で、男性を中心に

お着物姿で集まるという企画があり、私も参加させていただきました。

百人ほどがお集まりで、そのうち8割ほどが男性の着物姿でした。



男性のお着物姿が多いのは踊りや、邦楽関係がありますが

そういった集まりは黒紋付きや色紋付きに袴姿がドレスコードとなりますが

今回は普段のお着物をみなさんがお召しで、着こなし方も様々で

本当に着物を楽しんでいるという感じでした。



前半はホールに着席しての、トークデイスカッション、

20代から50代まで各世代を代表した方が、男の着物の楽しさや、

着るようになった動機などを中心にいろんな話がありました。



後半は食事をしながらの立食での懇親会で、東京の方から遠くは青森や関西の方、

呉服店や創り手などの業界のものから、お着物好きな方まで、おいでの方も様々でしたが

着物の話という共通の楽しみがあることで、ずいぶんと盛り上がっていました。



「男のきものの魅力、楽しさってなに」という話になったとき、

みなさんが言うのは、「着ていて楽だ」、「ゆったりとした気分になれる」と言うことでした。



この「着ていて楽」という感じは、お着物を着てみてこそ分かる魅力です。

見た目の良さもさることながら、この着てみてこそ分かる楽しさというのが

お着物の本当の気持ちよさです。



男性のお着物は、締め付けるところが一つもありません。

洋服ならば、ボタンを留めて、袖口を留めて、ウエストにベルトを締めて、首にはネクタイ、

男性は普段こんなに身を締め付けながら生活しています。

和服の時には、襟元はゆったりあき、袖口から上腕にかけてまで生地がまとわる事はなく、

またズボンと違い脚にも締め付ける感じはしません。

おなかの下に締める帯は、背中の背骨の付け根から前腹の下にかけて

締めると言うよりは支えるといった感じです。



私は普段着物を着ていることが多いので、逆に最近では洋服を着るときには

一年中、上着を脱いで袖をまくり、ベルトをしないでサスペンダーという格好です。

とにかく締め付けたり、まとわりつく感覚がいやになってきます。



洋服と和服を比べたときに大きく違うのは、体と生地との距離です。

洋服に比べて和服の時は、肌と生地の間が広く空いています。

この差は、生地がまとわりつく感触が少なくなるだけでなく、

保温性や通気性が高まるのです。



いろいろ書いても見ましたが、

なによりそれを実感できるのは、着てみることです。

今お着物を着る方が少ないのには、街中に着物姿が少ないことが一つの理由です。

気軽に楽しんで、お着物をお召しになっている方が増えてくると

「やっぱり私も着物を着てみよう」、そんな風に思う方が、

男性女性を問わず、沢山増えてくることと思います。



涼しくなってきて、お出かけにも楽しいこれからの季節、

さあお着物を着てお出かけいたしましょう!

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10月13日

着物を永く大事に着るために 2
  「大島紬の大手術」


先日に引き続き、お着物を永くお召し頂くためのお話と思います。



上のお写真は、先日お客様よりお預かりした大島紬です。

毎日お仕事でお着物をお召しになるお客様ですので、

お手入れをお預かりしながらお召し頂いておりますが、

生地の丈夫な大島紬といえども、生地が弱ってくることもあります。



お写真のお着物は、といて端縫いをしてある状態ですが

お着物のちょうどおしりの部分が生地が弱って切れてしまいました。

毎日いすに座ることが多いので、一番生地がすれて弱りやすい所が

痛んでしまったのです。



写真は右後身頃のお写真で、左の後身頃は穴が空くほどではありませんでしたが

同じように力のかかる腰の部分ですので、こちらも共に痛んでおりましたため

生地にハサミを入れて、生地を入れ替えながら直すことにいたしました。

まず一度お着物をほどいて、これ以上痛めないようにしながら

汚れを落として、筋を消しました。



ちょうど、おはしょりに入る所か内揚げの部分で

仕立て上がって見えない部分で

4枚の身頃にハサミを入れます。



お仕立てをするときには、 一番生地の弱っていた右後ろ身頃(写真の部分)と

下前身頃(着た時に下前に隠れる部分です)を入れ替えました。

左の後ろ身頃も生地は切れていなくても、弱ってきているので

片袖をほどいて、袖の部分の生地と入れ替えてお仕立ていたしました。

入れ替えるときに、痛んでいる部分にはそれぞれ薄い生地を当てて補強してお仕立てしました。



一緒に衿も解いてありますので、

長い主衿(衿の下の部分です)から共衿(衿の上にかかっている部分です)分の生地をとり

このきれいな部分を新しい共衿にして、古い汚れてしまった共衿を

残った主衿につなぎ、汚れが下前側になるようにして仕立て直します。

イメージ的には下の図です。

こんな風にお直しを出来るのも、解いて端縫いをすると

また一反の反物に必ず戻る日本の着物だからこそです。



破れてしまえばお召しになるのをやめてしまうこともありますが

自分がお若い頃にお気に入ってお作りになられたお着物だからこそ

いつまでも大事にお召しになりたいというお気持ちから

色々な方法でお直しをしてみました。



こうして愛着のあるお品を大事にお召しになられる方だからこそ

新しいお品をお作りいただいたときにも、本当に大事にお召し頂きます。



呉服屋ですので、新しいお品をお作りいただけることは有り難いですが

いまは新しいお品でも、自然と 時がたってゆきますので、

こうして以前のお品を大事にお召し頂くことも本当に有り難いことです。



「あなたのおばあちゃまのお勧めで作ったのよ。」と言って

祖母のお客様がお孫さんにご自分のお着物をお着せになっていたりするのを拝見すると

代々続けて呉服屋をしていて、嬉しいことの一つですし、

自分の子や孫の時にもそんな風にお客様に言っていただけるお店でありたいと

思っております。

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10月7日

Bunkamura 「 琳 派 空 間 」のご案内

渋谷にあります東急文化村のザ・ミュージアムでは、

文化村の10周年を記念して「 琳 派 空 間 」の展示がされています。





琳派は、桃山時代に本阿弥光悦、俵屋宗達にはじまり、

江戸中期の尾形光琳によりその画風が広く知られるようになります。

絵画だけでなく、着物、道具類、調度品、陶器など幅広い分野において

その流れが受け継がれ現在にも至っております。



お着物でも特に礼装にお召しになるお品には、

琳派調という模様付けや作風があります。



今回の展示は、絵画だけの展覧会ではなく

屏風絵や軸の絵に始まり、道具や食器、着物、などなどひろくてんじされ

琳派調をモチーフに生花やオブジェでその空間自体を表現しようとしています。



先日開かれていた、松濤美術館の江戸小紋展では

古いお品も沢山でておりましたが、古さゆえの雰囲気がありましたが

今回の琳派展に飾られている、屏風絵などは江戸の頃の物でも

古さの全く感じられないような物もあります。



意匠やその世界が現在でも受け継がれていることと共に

丁寧に描かれた彩色や、箔使いなどはいまでも古さを感じさせません。

江戸小紋展と琳派展と続いて見て、

時が過ぎても変わらぬ良さや味わい深さといったことを感じました。



文化村では引き続きゴッホ展が予定されています。

文化村ホームページはこちらです。



10月5日

着物を永く大事に着るために

着物のお召しになり方も、人それぞれと思います。

日頃からお着物だけで過ごす方もあれば

何か特別なあらたまったときにお召しになる方もおいでです。



私もそうですが、普段毎日のように着物を着ていると

気になるのは汚れや着物のいたみです。



衿や袖口、裾の汚れなどはもちろんですが

こういった汚れはシミ抜きや洗いをすることでケア出来ますが

一番困るのは裾が切れてくることです。



ちょっとした綻びは、縫い直して応急処置が出来ますが

裾全体にわたり切れている箇所がが多くなってくるとそう言うわけにもゆかず

ほどいて仕立て直すようになってきます。



昔のような畳の生活と違い、最近ではカーペットなどでも化学繊維が多いため

静電気により裾には汚れが付きやすくなっています。

また、街中も土の埃でなくアスファルトの舗装や車の排ガスなどからくる

油性の汚れも多くなっており、ちょっとはたいたくらいでは汚れがこびりついて

落ちにくくなっています。



以前の着物をお客様よりお預かりしたときに

最近では珍しく裾の内側に当てがしてありました。

八掛の裾に同じような色目のリボンのテープが補強の意味でかけてあるのです。

普段にざくざくお召しになっていた頃は、みなさんご自分でこのように

当てをして、裾が切れるのを防いでいました。

いまでも、お仕事などで日々お召しになる方のためにはこのようにお仕立てすることもあります。

裾が返ったときに目立つとおかしいので、八掛の色目に合わせた色で当てをします。



最近では、お洋服での生活が中心となり、着物を着るのはお休みの日や、お出かけの時

お人によっては本当に何か特別な時と、日常での出番は生活の習慣の変化と共に

少なくなってきました。



毎日のように着物を着ていた祖母の頃には

普段着の着物は、大分汚れるまで着てしまい、自分でほどいて洗い張りをして

夜にラジオを聴きながら自分で仕立てたと聞いています。

そのころは、衿の汚れも次第に落ちなくなってくるため、掛衿分だけ残布をとっておき

汚れが取れなくなると衿をかけ直しながら着ていたそうです。

ですので、お母様のお着物をお嬢さんにお仕立て直しといってお着物をお預かりすると

縫い込みが全然なく見頃に足し布をしてお仕立て直さないと、

お召しになれなかったという事もよくあります。



最近では、そんなに汚れきるほど、お召しになることも少なく、

こまめにお手入れをお預かりすることが多いので

残布を残すよりは内揚げにたっぷり縫い込んでおくことの方が多くなりました。



一昨年に私の祖父が亡くなり、残った着物を着ようと思いましたが

やはり身丈が足りず、縫い直そうにも内揚げのほとんど無い着物も少なくありませんでした。

祖母に聞くと、祖父の頃には店で着物を着るときには前掛けをしていたので

私の祖父は小柄でしたので残布で前掛けを作っていたそうです。

結城の紬もありましたが、やはり丈が足りませんでしたが

もしその残布で前掛けを作っていたならば、

結城の前掛けならそれがぜひ欲しいなどと思ってしまいました。



生活の様子や習慣は変われど、

自分の愛着のある品を永く大事に使いたいのは

お着物でもお洋服でも変わりはないはずです。

デザインや流行による流行り廃りがないお着物だからこそ、

お直し次第で、着物にも、上着にも、帯にも(ときには小物や、布団にも)

形は変えながらも大事に使えるお着物だからこそ、

よりいっそう思いを込めてお召し頂きたいと思います。



これからのお着物でのお出かけの楽しいシーズンを前に

ご自分の箪笥や、お母様の箪笥の引き出しをあけて

大切なお着物をぜどんな風に楽しもうかぜひ考えてあげて下さい。





9月27日

「秋のきものクルージング」のご案内

秋分をすぎて、涼しさも増してきて

お着物でのお出かけにも楽しい季節となりました。



昨年開催してご好評を賜りました「着物クルージング」を

この秋も「きもの呉盟会」で開催いたします。



今回は、10月30日(土)に天王洲アイルから出航する

レデイクリスタル号でのランチクルーズをお楽しみ頂きます。



詳しいご案内は、きもの呉盟会のホームページにてしておりますので

ご覧になってみて下さい。



「着物クルーズ」のご案内のページへ

定員になり次第で締め切りとなりますので

お申し込みの際には、玉川屋呉服店のホームページよりのお申し込みと

お書き添え下さいませ。




いつもと違う雰囲気でお着物をお楽しみ頂ければと思いますので、

お気軽にご参加下をお待ちしております。



玉川屋でも、またお着物でのお出かけの会など

企画してまいりたいと思っておりますので

リクエストなどありましたら是非お寄せ下さい。





9月9日

「きもの博士」の表彰と、ソプラノリサイタル。

菊の節句とも言われる、重陽の節句を迎え

まだ残暑は感じられながらも、

時折ふく涼しい風に秋の訪れを感じられるようになりました。



この度、私ども玉川屋呉服店が加盟する、「きもの呉盟会」という

東京の呉服専門店の組合で、

毎年、着物を愛する著名人の方を「きもの博士」として表彰し

それに合わせて、お芝居やリサイタルなどの

イベントを企画しております。



この度は、女優の波乃久里子さんを

第41代の「きもの博士」として表彰し、

日本のソプラノの第一人者として世界的にも有名な

中丸三千繪さんのリサイタルを企画いたしました。



(詳しいご案内は、「きもの呉盟会」のホームページ

  http://www.kimono.co.jp/gomeikai

  にてご案内しております。)



開催の日時は、

本年度は、波野久里子さんや中丸三千繪さんの

ご都合により、9月20日(月)の夕方となっております。

例年、着物を気軽にお召し頂く場としても企画させていただいております。



単衣の時期のウイークデーということもあり

お着物は、なかなかお召しになりにくい方もあるかと思いますが

普段は一般に向けて公開していない、「きもの博士」の表彰と共に、

フルオーケストラをバックしてのソプラノリサイタルというのは

あまりない機会ですので、

この度ご案内させていただきました。

(おつとめのお帰りや、普段のお洋服でも

 お気軽にどうぞ。)



通常 S席が8.000円のところ

私どもで一部を負担させていただき、6.500円にて

ご優待をさせて頂きます。



もし、お時間がございましたら

ぜひご覧になって下さいませ。



チケットをご希望の方は

メールにてお申し込みを頂ければ

ご連絡をさせていただきますので

どうぞお気軽にお申し込み下さい。



玉川屋へのメールはこちらをクリック



だんだんに涼しくなり

お着物でのお出かけも楽しい時期となってまいります。

これから玉川屋でも、気軽にお着物をお召し頂く場を

提供してまいりますので、

お気軽にご参加下さいませ。





8月28日

産地でのはなし 「越後上布」

例年通り、八月の初めに越後の産地へと行ってまいりました。

来年用の夏の織物のてはいを中心に、織物の機屋さんを回ってきます。

早めではありますが、今年の皆さんからの

「こんな着物や帯がほしい」とか「この着物に合う帯を探して」といったお声や

お好みになる色や柄の、イメージがしっかり残っているうちに

産地へ行って、品物を創ってきます。

柄の色見本帳や、持っていった色見本などをまえに、

機屋さんと相談しながらつくってゆきます。

着物に限らないこと思いますが、ものを創るというのは面白いもので

特にそうしてつくったお品が、喜んでお客様にお召しいただけるのは

さらに嬉しさや、張り合いを大きなものにしてくれます。

呉服屋をしていて、もっとも楽しみなことの一つでもあります。



ともすれば何でも大量生産のものが多い今の世の中で

自分のお店らしいこだわりのある品をお揃えするのが、呉服屋の楽しみでもあり

ご覧になるお客様の楽しみでもあります。

すぐそばに2軒の呉服屋さんがあっても、それぞれに品揃えが違い、店の雰囲気が違い

それぞれに商いをしているという、他のご商売からするとちょっと変わったところは

そんな各お店のこだわりから来ています。



産地へうかがうことの目的は品づくりが中心ですが、

普段は分からない産地ならではのものづくりに対するお話を伺うことが出来るのも

良い勉強になります。

品物についての説明や、作り方、職人さん達の様子などから、

「このお品は、こんな風な思いでつくった。」とか

「こんな新しいものを創ってみようと思いますが、お客様はどう感じられますか?」といったお話は、

その品をお店で皆さんにお目にかけるときにも、きちっとした説明やお話が出来ますし、

来年以降にまた新しい品物を作ってゆくための、よい下地となってゆきます。

今回は絹の織物だけでなく、越後上布も見てまいりました。

越後上布は、会津の昭和村で取れる苧麻(からむし)からつくられます。

上の写真は、太い糸が経糸、細い糸を緯糸に使ってゆきます。

麻の茎を水に漬けて柔らかくし、皮の肉質をこそいで繊維質だけにします。



その繊維質を口と指を使い細く細く裂いてゆき、

150センチに満たないその麻の糸を、一反分の長さになるように繋いでゆきます。

この苧績み(おうみ)といわれる工程は、糸を結ぶのでなく、撚って繋いで糸にします。

それも糸の太さによりより方を、違えながら織り上げるための強度を持たせながら糸をつくります。

糸を繋ぐ工程もさることながら、自然のままの麻の茎から、細い細い糸を 均一に裂いてゆき

一反分の糸を揃える作業が、至難のわざとも言われています。



出来上がった糸はよりをかけて揃えられ、いくつかの工程を経ながら染められて絣の糸につくられます。

糸はその繊細な性質から、経糸を自分の腰にかけてひく、「居座り(いざり)機」と呼ばれる機を使って織られます。

強く引くと糸が切れやすい為に、自分の体で力のかけ具合を加減しながら織ってゆきますが

力のかかり具合が一定でないために、絣の柄を袷ながら織るのはとても難しくなります。

糸の性質上、もう一つ問題なのが乾燥です。

そのため常に湿り気を与えながら、織り上げてゆきます。



越後上布には麻匠と呼ばれる方がいます。

先ほど書いたように、麻の糸はどれも一定の太さではないために

織り上げる着物に合わせて糸の太さを揃えたり、織り手の職人さんにも

柄や織り方の得意不得意があったりするので、うまく織り上がるように

それを振り分けてゆくといった、いわば越後上布のプロデユーサーのような仕事です。



先日伺った話では、各工程の職人さんもさることながら

この麻匠の仕事を出来る方も少なくなってきているそうです。

理屈でなく、感覚や経験でしか出来ない仕事だそうですので、

色々な意味で、これからもしっかりした品ををつくってゆくためには大変さが有るようです。



越後上布には、もう一つ他にない特徴として「雪晒し(ゆきざらし)」があります。

3月頃の雪の吹雪かなくなった頃、晴れた日の昼間に田んぼに積もった雪の上に

しめらせた上布の生地を並べてゆきます。

夕方になると気温が下がり凍ってしまうため、その前に取り込みながら2週間ほど続けることで

色物は色目が落ち着き、白い物は白がはっきりとしてきます。

科学的に見ると、「下の雪が蒸発するときに、オゾンの作用で汚れを生地から取り払う効果が・・・」と

伺いましたが、何もないところからそういったことを考え出した昔の人の知恵にはびっくりします。



そのときに一緒に聞いた話ですが、

越後上布は織り上げた時だけではなく、仕立ててお召しになるうちに汚れてきたら、

ほどいて反物に戻してから雪晒しをすると、また綺麗になるのですが、

ある時、古い蔵から上布の着物が出てきて、雪晒しの依頼が来たそうです。

調べてみると150年ほど前の物だったようで、最初は断っていたそうですが

「駄目になっても構わないので、とりあえずやってみて下さい」とのことで、

春に雪晒しをしてみたところ、それがすっかりきれいになってしまったとのことでした。

地元の方も、自然の素材の強さと、長い間の知恵に自分たちでも驚いたそうです。



色々なお話を伺うたびに、

あらため気持を込めて、手で作り上げてゆくお着物の奥深さを感じると共に

皆さんにそれをちゃんと伝えなければならない、呉服屋としての責任も感じます。



作る方から、仕立てる方や、染み抜きをする方、そしてそんなお着物をお召しになる方、と

どの人がいなくても、お着物を楽しくお召し頂くことが出来ません。

ちょうどその真ん中におります、呉服屋の楽しみと責任を

あらためて思いました。





8月4日

松濤美術館 「江戸小紋と型紙」

8月10日(火)より9月26日(日)まで

松濤美術館において「江戸小紋と型紙(極小の美の世界)」が開催されます。

江戸小紋の型紙と共に、家康所用の着物など貴重な資料としての着物も展示されます。



江戸時代の武士の裃に用いられ、一般にも普及し着物にも染められるようになり

現在までも続く江戸小紋ですが、型紙を彫る工程から染める工程まで

近年では少なくなり、型紙の多くも痛んだり、使われなくなったりで

失われていったものも少なく無いようです。



普段は型紙の展示を中心としたものが多い中、

今回は、家康所用の初期の小紋の着物や各藩の裃、町人の着物、

明治、大正、昭和の着物約70点などが展示され、

それと共に、200点あまりの全国の代表的な型紙、染め見本帳、歴史的資料が

展示されます。



また9月4日(土)の2時から4時には

「着物文化の中の江戸小紋と型紙」と題して

東京国立博物館染織室長の長崎巌氏らの講演が予定されています。



松濤美術館は、渋谷の文化村通りを文化村をすぎてさらに進んだところで

周囲は落ち着いた昔からの住宅街で、湧き水の池のある鍋島松濤公園や、

お茶道具などの展示が多い戸栗美術館、観世能楽堂などのある

渋谷の駅周辺とは違う、落ち着いた散策コースとなっています。



旧山手通へ出て、代官山の方へ向かうと

オープンカフェや、お洒落なレストランなどが沢山ありますので

ゆっくりと楽しめるはずです。



賑やかな渋谷と少し違う渋谷もお楽しみいただけることと思います。





7月13日

今年の浴衣

今年も、朝顔市やほおづき市も過ぎ、花火大会もこれから沢山はじまる

浴衣のシーズンとなりました。



ここ数年は浴衣もブームと呼ばれ、7月にはいると街中でも沢山の

浴衣の方を見かけます。

浴衣を扱うのは、以前は呉服店だけでしたが、最近ではブテイックや、デパートでも

色々な浴衣が並んでいます。

数年前から、カラフルな色合いの浴衣が増え、古典調の藍染めの浴衣などは

少なくなっていました。昨年は、シースルーの浴衣が話題を呼び、

今年はフォーマルな時にもOKと花紋の付いた紋付きの浴衣という

ちょっと不思議な浴衣まで登場しました。



今や浴衣は、以前からの夏の夕に涼を求めて着る浴衣ではなく

夏のファッションの一つともなったようです。

ファッションのアイテムの一つとなり、洋装と同じように作られる浴衣は

ここ数年の傾向として、毎年流行の雰囲気が変わり、新しい雰囲気の品物が

今年の流行として雑誌や、テレビなどで取り上げられるようになりました。

昨年に話題となったシースルーや、多様な着こなしが出来るワンピース風などは

今年はすっかり影をひそめてしまいました。

明るめの、柔らかい雰囲気のサマードレス調の浴衣が今年は多い様です。




         お仕立て上がりの浴衣と手前はサマードレス風の明るい色
         一番奥にかかっているのは紅梅の浴衣です。


とはいえ、浴衣をお召しになる方も、洋服のように流行の品をお召しになる方だけでなく

やはり昔からの浴衣のイメージをもって、古典調の浴衣をお探しになる方もおいでになります。

私共の店では、藍や紺の地を中心とした昔からの浴衣らしいお品を揃えておりますが

最近では少なくなってきている分だけ、探している方も多い様です。



今年の傾向とすると、紺地や藍地にくわえ、白地の浴衣をずいぶんとお作りいただきました。

お客様に伺うと、やはりすっきりとした、目にも涼しげなお品が良いというお声と、もうひとつ

この夏放送しているビールのコマーシャルに中山美穂さんが白地の浴衣に赤い帯で

お母さんに浴衣の着付けをして貰っているシーンがありますが、そのイメージも強いようです。



白地の浴衣や、紅梅の浴衣、絞りの浴衣などです。



お友達に地色付きの浴衣の方が多いと、かえって紺や藍、白地などが新鮮にうつる事もあるようです。

また、どうせ着るなら人よりちょっとお洒落に、との思いから

絹紅梅や、綿紅梅、綿絽といった、少し上のお品をお誂えになる方も、

今年は多くおいでになりました。

絹紅梅などは麻の襦袢を下に着て半衿を出して、献上の帯などを締めると

浴衣の代わりだけでなく、立派な夏のお着物としてお召しになれます。

 (ちょっと前までは、そんな着物すがたに、日傘をさして、風呂敷包みというのが

  お中元のコマーシャルの定番だった気がします。)



ワンランク上の浴衣との気持ちの延長から、初めてご自分でお誂えになるお着物が夏物という方も

今年は多くいらっしゃいました。着る時期が短いし、どうせ買うなら袷のお品をと思っていた方も

いざ着始めてしまうと、その色や柄の季節感、襲(かさね)の映り、生地の軽やかさ、といった

夏ならではの涼感、そして何より、いかにも涼しげな雰囲気をかもし出せる、

夏の着物ならではの楽しみを見つけると

逆にお召しになる期間が短いだけに、お気軽に沢山お召しになる様です。

 

浴衣はすっかり夏のファッションとして定着してきましたので

ぜひそこから少しでも、気軽にお着物をお召しになる方が増えてくればと思います。

あらたまった時のお着物姿は見かけることも多いですが、そうではなく、

一寸したお出かけや、機会に気軽に着てこそ、お着物本来の楽しみは 感じられるものと思います。

軽くて着やすい夏のお着物から始められてはいかがですかと、お勧めしている最近です。



 (蒸れた空気のこもりやすい化繊の生地でなく、お家でも洗える麻や海島綿の襦袢など

  ちょっとした工夫で夏のお着物もぐっとお召しになりやすくなります。

  気軽に、楽にお召しになるために色々と頭をひねってみるのも、また楽しみの一つです。)




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