平成10年の1〜6月の分です。


3月15日
季節の節目を楽しみませんか?


 更新が進まず、大分間があいてしまいましたが、思い溜めていたことをまた書いてゆきます。

 まず新年の着物のことを。(本当に以前のことですみません。)  

 

 昨年の暮れに久しぶりに着物を新調しました。昨年の秋、冬と大変に忙しかったので、年が変ってからは少しゆとりを持てる様にと、

グリーンの真綿風の紬

(本来は女性用の無地の紬なのですが、生地巾もたっぷりとして、とても良い色なんです。

 店の商品を仕入れに行き自分好みの掘り出し物があったので手に入れていたんです。)


 水色の縦縞の塩沢紬

(昨年秋の呉盟会の赤札奉仕市で、他のお店が出品していたお品なんですが、これもやはり本来は女性用の生地なんです。

 生地には大抵、耳が付いていてそこの部分は生地中の部分と織り具合が違うため仕立てる時には、その耳から中の生地巾を使ってお仕立てをします。

 ところが織物の場合には、生地巾いっぱいまで同じ生地で織ってある時もあります。

 そんな反物は生地巾いっぱいを使ってお仕立てが出来るので、女性用であっても男性のお着物にしても十分お召しいただけます。

 今度の紬はかなり明るいブルーで男物としてはちょっとにやけすぎた感じかもしれませんが遊びに行くときにはいつもと違って楽しいかと思い作りました。

 実際、昨年秋の赤札奉仕市では男物の特集をしていましたが、どうしても紺、グレー、茶、緑といった決まったお色がほとんどですので、

 少し凝った洒落色を探そうとするとよく女物からも探したりするんです。明るい色目でも羽織や、帯の取り合わせで落ち着かせることが出来ますので、

 男物といっても色々楽しみ方も増えるはずです。でもあまり変った色を選びすぎると、笑点の大喜利みたいになりますので気を付けてください。)


 紺の紬地の羽織

(これは昨年の秋になくなった祖父のものを仕立て直したものです。

 特別良いお品ではないのですが、裏も今では無いような洒落た裏が付いていたので、今でも楽しく使えますし、

 何より祖父との思い出をいつまでも持てる様で嬉しいものです。

 その他にも「ちょっと貸して」といったまま、借りっぱなしで自分の物にしてしまった角帯などと色々あるのですが、そんな話もまたいつか。)



 暮れはどうしても仕立てやさんも大変込みますので、お客様をお品が最優先でしてまいりますので自分の着物の仕立ては後回しになりますが、

仕立てやさんも都合を付けてくれて大晦日の夕方に3点が仕立て上がってきました。

届いたたとう紙を広げて、しつけ糸のついた新しい着物をみると、暮れのおしせまった忙しさも忘れ、楽しい気持ちになってきます。

こういった時は、新しいお着物をお届けした時のお客様は、こういう気持ちで喜んで下さっているのだなと、あらためて思います。



 以前はお正月用にお着物を新調する方は沢山いらっしゃいました。

お着物だけでなく、お洋服やお家の中の物でも新年用に揃えて、年が明けたらおろして使い始めるといった事は多かったと思います。

最近ではだんだんそういった節目を意識することが少なくなってきたのではないでしょうか。

 

 お正月でもお盆でもいつもとまったく変らない生活を送ることが出来ますので、 なんでも便利になって良いのですが、

かえって季節毎の変化を楽しんだり、何かの節目に気持ちを入れかえたりといった面白さは逆に少なくなっているのではないでしょうか。

 クリスマスやバレンタインデーなども賑やかで楽しいのですが、歳時記のページにも載せていますが日本には恵まれた四季があり、

それぞれの季節でそれぞれの節目や情景がありますので、そんなものにもう一度目を向けてみると

便利だけれどちょっと味気の無い今の生活に、少し花を添える事が出来るのではないかと思います。


 花や食べ物も今では1年中何でもありますが、「旬(しゅん)」の物をあらためて見直してみるとその季節の移り変わりや節目を楽しめるのではないでしょうか。

お雛祭りに桃の花を飾ったり、桜の時期に桜の柄のお箸置きやランチョンマットを食卓で使ったり、端午の節句で菖蒲湯に入ったり、

夏の終わりにお初の秋茄子をいち早く食べてみたり、結構楽しめるはずです。

 季節の流れを感じる事も出来、それぞれ由来やいわれのある行事や風習を行うことで

色々な日本の伝統などにあらためて関心を持つこともあると思います。

ちょっとした入り口を作ってやることで、ずいぶん奥の深い楽しみが持てるのではないでしょうか。

(気軽に入り口をくぐるといろんな奥深い楽しみが広がっているのは、お着物と同じことだと思います。)


 ボージョレー・ヌーボーを飲むのも、本来は味でなくその年の新酒をいかに早く飲むかといった、遊び心からと聞いたこともあります。

そんな楽しみ方は洋の東西にかかわらず同じのようです。

 ちょっとした工夫で、気持ち豊かな生活をぜひ楽しみましょう。

 そんな時に、お着物を彩りとして楽しんで頂く事が出来れば、一番嬉しい事なんです。




1月30日
古いきものを着ることって


 先日の成人の日は、関東地方は雪のお天気でお着物を着るのをあきらめられた方や、

ニュースでも報道されていましたが、お振袖の裾を捲ってスニーカーをはいていた方など

お着物を着るにはあいにくのお天気となってしまいました。

 

 芸能ニュースではその年の成人を迎える女優さんやタレントさんの振袖姿が例年報道されていますが、

今年は女優の松たか子さんのお着物姿が印象的でした。テレビでもずいぶん写っておりましたのでご覧になった方も多いのではないかと思います。

 松さんがお召しになっていたのは、代々伝わる江戸時代のころのお振袖とのことでした。

彼女は秋頃にも、お祖母様のお着物という黒地のおそらくお振袖のお袖を直したのではないかと思うお着物姿でもインタビューに答えていました。

 歌舞伎の一門という事もあるのかもしれませんが、お洋服姿の時とはまたちがう落ち着きのある雰囲気の姿でした。

 私どもの店でもお母様やお祖母様のお着物や帯をお若い方用にお仕立てし直すことはずいぶんあります。

お着物には柄やデザインに流行があるわけではありませんが、それでも一時代、二時代前のお品になると、やはり雰囲気は違ってきます。

新しいものとどちらがよいというわけでもなく、それぞれの味といったところでしょうか。

 

 お着物も帯も以前のものをお使いすることもあれば、片法だけ新しいものをご用意することもあります。

古いお品でも、生地がしっかりしていれば十分お召しになれますし、しみや汚れも畳んでおくと目立ちますが、着てしまえば気にならない程度になることもあります。

汚れのひどいときでも、上から周りに合わせて柄を足しててお召しいただきます。

 

 最近では日本では古いものを使うのは、あまり格好良くないといった風潮もあります。

新しいものや流行のものを次々使ったり、使い捨てが簡単で便利、といった傾向が強いのではないかと思います。

 でも以前の着物や帯を使ってみて思うのは、古いものを使うのはそれが良いものであるという証だということです。

痛んでしまい使えなくなってしまうのではなく、いつまでも十分使えるものであるからこそ、それを大事に永く使うのは自然なことだと思うのです。

 以前のものを使うことでも、親や祖父母のようなご自分の身内のお着物や帯を使うことは、

アンティーク着物の様な他の人の使っていたものをお召しになるのとはまた違う意味もあると思います。

アンティーク着物をお召しになるのは、純粋に自分の気に入る品を無駄にすること無く装うことですが、

お身内のお品を装うというのは、その人の気持ちや思い出も一緒に受け継ぐことではないでしょうか。

 私も昨年末に祖父を亡くしましたが、今その祖父の着ていた着物を直しながら着ていっています。

その着物を着たときには祖父を思い出すといったことよりも、祖父母があり、両親があり、そして私達があり、また私の子供達に続いてゆくという流れを感じることができ、

感謝の気持ちとともにこれからも頑張ろうという気持ちが湧いてきます。

 

 心に思うことは人それぞれでしょうが、箪笥をあけて古いお着物を引っぱり出してきて、あらためて見てみるのも面白いかもしれませんよ。


 お着物や帯、襦袢、コート、羽織などなど古いお着物を作り直したり、汚れを目立たなく作り直す仕方は色々とあります。

そんな着物に込められた知恵もまた徐々にご紹介してゆきたいと思います。

 (ご紹介したいことはたくさんあるのですが、更新もなかなか進まず申し訳ありません。少しづづでも書いてゆきますので、どうぞ永い目で待っていてください。)

 


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