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玉川屋 トークショー「麻」

no.3

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これからは越後上布の糸の話をしてまいりますが、

越後上布というのは、苧麻の草の芯と外の皮のあいだにある繊維を爪と指でだんだん細く裂いていって糸にします。

これが裂く前の状態、そしてこれが裂いていった糸です。

裂く前の麻の繊維です

裂いた麻の繊維を糸にした物です

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この糸は色々使っているので絡まってしまっていますが

俗に、麻のように乱れると言いますが、こんな状態を言います。こうなってしまうともう糸に戻すのは不可能です。

元の繊維がこのくらいの長さですので、着物に織るためには、細く裂いてから繋ぎ合わせて糸にしなければなりません。

その時の繋ぎ方も決まっているのです。

裂いた物を合わせて、撚って、撚った部分を寝かせて、また撚ってとめます。

一本づつこうやって繋いでゆきます。

      裂いた麻の繊維を2本重ねて、

      撚り合わせて

      撚り合わせた部分を寝かせて、

      もと糸と撚り合わせます。(結んではいません)

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麻の繊維は堅いので結ばなくともこうやってしっかり繋いでゆくことが出来ます。

糸をよく見て行くと、この繋ぎ目を見つけることが出来るはずです。

この時に、撚った部分を寝かせるのは同じ方向に寝かせて行きます。

というのは、同じ方向にしておかないと工程の途中で糸が解けてしまうことがあるからなんです。

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繋いだ糸は順々に桶に入れて行くのですが、

入れて行くうちに糸の先頭が分からなくなるので桶の底板が抜けるようになっています。

全部糸を作り終わったなと思ったら、桶の底板を抜くとそこに糸の先頭がある。

そのまま引っ張ると絡まったまま全部上がってしまうので、大豆とか小豆とかをおもりの代わりに入れてから

糸の先頭を引っ張ると、一本になって糸がずっと上がってきます。

桶の中に繋いだ糸を入れてゆきます

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出してきた糸は、そのままでは使えないので枷(かせ)という、巻機に巻いて取ります。

順々に次の作業に移るときに、しごいたり、穴を通したり、操行(そうこう)という機にかける時に櫛の歯のあいだを通したりいう工程がありますが

寝かした撚りの部分を逆さから通すと、繋いである部分が解けてしまうんです。

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そこで、糸の撚りの寝かせる方向を揃えた上で枷に巻き取ります。

最初の工程で糸の先頭から巻き取ってゆくと、先頭が一番中に入ってしまうので

次の工程に進むときには、もう一度逆向きに巻き取って先頭を頭に出してやらなければならない、

糸に糊を付けたり、糸全体によりをかけたりというときには、必ず先頭から進んで、工程が済むと必ず巻き戻してやります。

越後上布の作業工程には糸の進行方向を必ず一定に保ってやるために、「おだまき」というこの巻き戻しの作業が必要になります。

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また話は脱線いたしますが、

日本舞踊をやっておいでの方は分かるかと思いますが、源義経と静御前がはなればなれになって

静御前だけが捕まり鎌倉へ連れてこられ、頼朝と北条政子の前で鶴ヶ岡八幡宮の舞台で踊りを踊らされるのですが、

この時に二つ踊りを踊ります。

その後の方の踊りで、「しずやしず、しずのおだまきくりかえし、昔を今になすよしもがな」と踊るのです。

この「しず」というのは、繊維の束の昔の呼び方なんです。これと自分の静御前の「静」を掛け合わせておいてから

先頭を頭に出すために巻き戻す作業「おだまき」をくりかえす、

つまり「おだまきを繰り返すように時間を逆戻しして、義経と一緒だったころの昔に戻れたらなあ」という気持が詩に込められているんです。

で、聞いている鎌倉武士達は感動するのですが、感動するということは彼らは

「しずのおだまき くりかえし」というのが、糸を元に巻き戻す作業であることをみんな知っているわけです。

そのころは、家の中で自分のお母さんや奥さんが衣服を作るためにその作業をしているのを見ていたわけです。

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国文学の上智大学の名誉教授をされていた鶴見和子さんが、十日町へ講演会でお見えになったときに

翌日、越後上布の織っているところをご案内したんです。

で、お話をしていたら「あ、そのことだね」という事になったんです。

鶴見先生は、国文学も、日本舞踊もお着物にも詳しかったのでそれが結びついたのです。

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もう一度、話しを越後上布に戻しましょう。

越後上布の糸は、布にするとものすごく強いのですが、糸の状態では乾燥するとすぐ切れてしまうという特徴があります。

ですので、湿度の高いときにしか作業がうまく進みません。

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私どもの越後では、11月の末からみぞれ混じりの雨が降り、12月のクリスマスのころから雪が降り始め

2月の中旬ではピーク時には4メートル以上の積雪となり、全部雪が消えるのが4月の後半から年によってはゴールデンウイーク中になります。

その間は湿度はむちゃくちゃ高い。東京などでは乾燥して湿度がとても低くなりますが、向こうは全く逆なので織るのには適しているのです。

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上布というと、越後上布、会津上布、能登上布、近江上布、奈良晒し、八重山上布、宮古上布などありますが

現在産地として残っている所はどこも、安定して湿度の高くなる期間を持っている所ばかりなのです。

越後は先ほどお話した雪のおかげ、能登上布は冬場の海風です。近江上布は琵琶湖の霧、奈良晒しは奈良盆地の湿度の高さから、

八重山上布、宮古上布は琉球の亜熱帯性の多湿な気候のため、それぞれ麻織物には適しているのです。

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