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玉川屋 トークショー「麻」

no.5

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あと、最後に「雪晒し(ゆきざらし)」の話をさせていただきます。

雪晒しというのは、雪の積もった上に生地を並べて陽に当てるのですが、

あれは何のためにするのかというと、生地を白くするためなんです。

雪晒しの様子です

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さきほど麻の繊維をお目にかけましたが、元の色はあんな生成の色です。

最初に草の皮をむいたときの色は、もっと緑に近いレモンイエローのような綺麗な色です。

年数が経ってくると、茶がだんだん濃くなってきて先ほどのような色になるんです。

それを白くしたいと言うことで、見つけだされた方法が雪晒しなんです。

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ものを白くするには、漂白という方法があります。

皆さん、ハイターとかブリーチとかお使いになりますよね。

あれは塩素を使った漂白方法です。正確に言うと塩素系酸化漂白と言います。

酸化漂白というのはどんな物かというと、炭が燃えると灰は白くなりますよね。

燃えるというのは酸化することなので、色素が燃えて酸化すると飛んで色が白くなるんです。これを酸化漂白と言います。

もう一つ、還元漂白という酸素を取ることで色素を抜く方法があるのですが、

こちらは手間のかかる特殊な方法なので、普通は酸化漂白を使うことが多いようです。

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塩素を使うと繊維が痛んだり、食品などに使うと体に害があったりしますので

酸化漂白はオキシフルという薬剤も使います。

うどんが白いのはこのオキシフルを使うんですが、オキシフルは揺すると成分が飛んでしまいますので問題がないのですが

このオキシフルは塩素に比べるととっても高価になるんです。

塩素の漂白は繊維を痛めやすいけれど手軽、オキシフルの漂白は繊維を痛めないけれどコストが高くなる。

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以上が一般的な漂白の話ですが、雪晒しはどういうことで生地が白くなるかというと

雪面で春に気温が上がってくると、雪が融けます。

決して底から融けるわけではなく表面から融けるのですが、融けるときにほとんどは水になるのですが

最初から水蒸気になるものもあるんです。

出来たばっかりの水蒸気に、強い紫外線が当たると光化学反応が起こりオゾンが発生するんです。

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ちょっと化学の授業みたいになりますが、水蒸気中の水の分子(H0)に紫外線が当たり、

酸素分子の(0)が離れて、空気中の酸素(0)と結びつきオゾン(0) になるんです。

このオゾンは不安定なので、酸素分子の(0)がすぐに離れて

また次からでてきた水蒸気と結びついて過酸化水素(H)になるんです。

この0の0もまた一つ余分なものなので、すぐに離れたがって

繊維の中を通過するときに濡れている繊維と一緒になって、この酸素(0)が色素を漂白して行くんです。

この過程が、自然の中で自動的に行われて行くのが雪晒しなんです。

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天気が良くてお日様が強ければ気温は上がります。

すると水蒸気の量が増えますし、その時には日差しも強いので紫外線の量も増えています。

水蒸気があまり上がらないときには、紫外線の量も少ないと言うことですので

ちょうど良い具合で進んで行くのです。

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もう一つ、雪というのは空気中で氷が結晶して出来ますが、結晶するためには芯がなければ駄目なんです。

何もない真空の空気の中に水蒸気を入れて、いくら温度を下げても雪にはならないんです。

空気中のホコリや塵を芯にして雪が結晶するのですが、

冬の雪国はそれがみんな雪になってつもってしまっているので、空気中の塵が少ないのです。

ですから紫外線を妨げるものが少なく、直接におりてくるわけです。

スキーにいかれる方は、春スキーはものすごく日焼けをすることがあるかと思いますがそれが原因です。

冬場に空気がきれいで、水蒸気が適度に上がって自動調節をしながら自然に生地を漂白して行くのを

経験則の中から見つけられていったのが雪晒しなんです。

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同じ越後でも、塩沢の紬などの絹物は雪晒しをすると生地が弱ってしまいますので

雪晒しをするのは麻だけです。

天候も、雪が降っているときは埋まってしまいますし、気温が低いときには凍ってしまいますので

雪晒しをするのは、3月頃になって天気が良くなってきてら朝、雪の上に出すんです。

朝の9時半頃か10時頃、天気が良くなって気温が上がってきたら広げて

3時半頃になってまた日が陰ってきたら取り込んで、

次の日もお天気がよければこれを繰り返し、ものによってですが大体1週間ほど繰り返しますと

生成の色が真っ白になってくるんです。

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最初に麻は、水に強く、年数が経つと強くなってくると言いましたが

皆さんがお持ちの麻のお品も、黄ばんだり汗染みがでたりしてきたら

ほどいて、端縫って反物の形にもどすと、雪晒しをしてもう一度きれいにすることが出来ます。

これを「縮(ちぢみ)の里帰り」なんて言います。

ちなみに今年も、衿や袖、肩山の汚れがすごく全体に黄ばんだ白地に絣の着物の雪晒しを頼まれましたが

約一週間ほどで、ほとんどそれが目立たなくなりました。

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雪晒しで不思議なのはハイターなどの漂白剤を使うと地も柄も白く色が抜けてしまうのに対して

雪晒しの場合は柄の色は落ちないんです。かえって地が白くきれいになる分、柄が浮き立つようになるんです。

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5年ほど前に、家に代々伝わる柄物の麻の着物があるけれど、もうすごく黄ばんでしまってどうにもならないので

駄目になっても構わないので雪晒しをして欲しい、と言うご依頼を受けました。

とにかく本物の麻ならできる、と言うことで一度お送りいただくことにしました。

お品を預かり雪晒しの技術保持者に見せましたところ本物なので大丈夫とのことで、

もう一度お品を送り返し、反物の状態に端縫って2月の後半に再度お預かりしました。

そうしたら、雪晒しをした方がびっくりするくらい

出した私も、「あれ、同じ品物かい?」というくらい真っ白にきれいになって上がってきました。

じっと見ると染みの跡がかすかに分かるくらい、それくらいきれいになって上がってきまして

お預かりしたお客さんからもとってもお喜びいただきました。

雪晒しをした方にどれくらい以前の品物かたずねたら

糸の作り方や、絣の作り方からして100年以上は経っていると言うことでした。

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あと少し、

この越後上布の特徴は、涼しいと言うことですが、なぜ涼しいかというと麻は熱の伝導率が高いんです。

熱伝導率というのは、例えばさわったときにどれくらい熱を伝えられるか、

スプーンなどの鉄はどんどん熱を伝えて散らして行くのでさわったときに冷たい感じがする、

逆に木などは熱伝導率が低いので暖かい感じがする。

繊維の中では熱の伝導率がもっとも高いのはナイロンですが、

天然繊維の中では麻になります。

じゃあナイロンが一番涼しいのかというと、化繊のものを夏に着ているととっても蒸れますよね。

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化繊がなぜ蒸し暑いかというと、熱伝導率の話を少し続けますが

空気は熱伝導率が低く保温力が高いんです、それより熱伝導率が低いのは水蒸気です。

だからダウンジャケットが暖かいのは、あの中に入っている羽毛が暖かいわけではなく

膨らんだ間に入っている空気の層が暖かさを保っているんです。

蒸れるというのは、この空気の層に水蒸気がたまるので暑いんです。

ですからナイロンはいくら生地自体が熱を伝えてくれても、

通気性が悪く空気や水蒸気を、体と生地の間から外へ発散しないので蒸れて暑く感じるんです。

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繊維には吸水発散性という、繊維自体が湿度の高い方から低い方へ湿気をはき出す力があるんですが、

この吸水発散性が繊維の中では麻がもっとも高いんです。

だから着ているときに書いた麻をどんどん吸い出して外へ発散して行くので

越後上布を着たときには、体を風が通り抜けてゆく感じがすると言われているのです。

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越後上布は水洗いがききますので、

普通に着て、普通にお手入れをして、普通に保管をしていただければ

400年ぐらいはもつと言われています。

一世代の年数ではないので、お作りになったときにはどこかへ記録を残しておくと

後世になって本当にそのお品の価値を感じるときがいつかくるかもしれません。

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お時間の中で色々なお話を

つらづらとさせていただきましたがいかがでしたでしょうか。

機会がありましたら、越後上布の糸作りや機織りの工程

雪晒しの風景など是非ご覧になってみて下さい。


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