.
.
糊を置いた生地には、今度は「しごき」という染め方で地の色を染めてゆきます。
着物の地色の染め方には、刷毛を使って染める引き染めという方法もありますが
江戸小紋の場合には、染料を混ぜた色糊を生地の上から置いてゆき地色を染める
「しごき」と呼ばれる染め方をします。
.
色糊を使うため、染料自体は生地の奥まで浸透せず生地の表面に乗った格好となりますため
江戸小紋は表が柄が染まっていても、生地の裏は白いまま残っていたりするのです。
単衣でお召しになったりと、裏が白くて気になるときには、裏は裏で色を染めたりも致します。
沢山の染料を合わせながら、地色を染めるための色糊を作ってゆきます。
刷毛で染める染め方ならば、染料を直接、刷毛に付けて小さな布で試し染めを出来るのですが
「しごき」染めの場合は、染料自体の色と、実際に色糊にして染めたときの上がりの色は
自然と異なってきます。
.
そのため、「この色の染料で色糊を作り、生地に染めるとこの地色に仕上がる」、
この色の感覚は、職人さんの経験と色合わせのセンスとなってきます。
見本を用意して、「まるっきり同じ色を」というのは、そういう意味では大変難しいのですが
繊細な色合いの組み合わせから染め上がってきた色は、
見本とは微妙に異なりながらもやっぱり良い色なのです。
.
また、真ん中の写真に、紙に張られた江戸小紋の色見本が移っていますが
生地端の地色と、実際の柄の部分は同じ地色ながらずいぶんと雰囲気が異なります。
白の目と相まって出てくる江戸小紋こその雰囲気でもありますし、
同じ地色でも柄によって白場が違ってきますので、染め上がりの色の雰囲気も変わります。
.
こうして現れてくる色目によって、帯次第で着る幅が大変広くなる江戸小紋の楽しさは
より深いものになっていることと思います。
糊を置いた生地に、細かい大鋸屑をかけてゆく機械です。
色糊を置かれた江戸小紋は、次に説明する「蒸し」という工程で、箱の中で蒸気に当てられます。
このとき小さく折り畳んでゆくために、反対側の生地に糊が着いて後でムラにならないように
こうした工程を経てゆきます。
手前の箱に、生地同士がくっつかないように、出っ張った針に生地を引っかけながら張ってゆき、
奥の蒸し箱に入れて蒸気を当てます。
蒸気を当てることで熱が加わり、染料の中のタンパク質が固まり、染料が生地に定着するのです。
色合いや生地の具合などによっても、蒸しの温度や時間も異なってきますので
そこら辺は経験と熟練の要するところです。
上の写真は、今日は水が張ってありませんが、ここに水を流して川のような水槽を作り、
染めて、蒸しをかけた生地を洗う「水洗い」の工程を行います。
ここで生地の糊気をすべて落とすと、地色に白い細かい目で柄の現れるあの江戸小紋が登場するのです。
いよいよ、最後の工程です。
こうして染め上がってきた江戸小紋には、どんなに丁寧に工程を進めていっても
微妙な型継ぎや染ムラなどが必ず残ってきます。
そこで補正と呼ばれる作業で、それを綺麗にして一反の江戸小紋が完成します。
補正と言っても、後から柄を描くことは出来ませんので
地色と共に近い淡い色を少しずつその箇所に差しながら、目立たなくさせます。
.
こうして言葉では書きますが、実際に拝見していると、
どうしているのか分からないうちに、自然と型継ぎが消えて分からなくなってきます。
重ねる色の色合わせや、さし加減など、やはりすべて経験から来るもの・・・ とうかがい、
最初の糊置きから、最後の補正に至まで、すべて熟練の手作業によって
いざ着物姿にお召しになったときに、素敵に映える江戸小紋が出来上がることを
あらためて皆さんに感じて頂けたようです。